『鳴神不動北山桜・毛抜』
=5:『オヤジは強そうなのがかっこいい』の巻=
*説明:たくましそうなお侍がお小姓を後ろから襲ってる場面の絵が付いていました。
ええ・・・
こんなエゲツねえコトをホントに歌舞伎の舞台でやってるのかとお思いでしょうが…
…やってます。しかも天下の歌舞伎十八番の演目です。
タイトルは、『毛抜』けぬき
お話、おもしろいです。お姫様が髪の毛が逆立つ奇病にかかってお輿入れできない。
でもそれは悪人が天井裏で櫛、かんざしを磁石でひっぱってたせいでした。
…という論理的かつワケわかんないストーリー。
今回描いたのは、故二代目尾上松緑(おのえしょうろく)。
TVの『鬼平犯科帳』で有名な中村吉右衛門さんのおじさんだと言った方がイメージしやすいかも。
「毛抜」、詳しく言うと『鳴神不動北山桜』(なるかみふどうきたやまざくら)ってお芝居の三段目。
四段目『鳴神』も五段目『不動』も歌舞伎十八番に独立して入っていますが、
三つのおハナシのストーリー上の関連性はもはや、ほとんどないです。
そして、その、磁石で髪の毛をひっぱるしくみを暴いて悪人をやっつける主人公が、
この粂寺弾正(くめでら だんじょう)。
弾正って名前のヒトよく歌舞伎に出てきます。これ、モトは律令制における官職名です。
っていうか名前によく付いてる「助(介)」や「丞」もモトは官職名だしね、官職名由来の名前というのは意外に多いのですが、そのへんはこんどゆっくり。
「弾正」というのは警察というか、検察官って感じのおしごと。
ところが名にし負えばお堅いはずのこのオヤジ、とんでもなくて、
腰元にちょっかい出して振られるわ、ちょっとかわいい若衆は口説くわ…
そのスキャンダラスな現場が、この絵だ。
歌舞伎的な役割分担でいうと、ストーリー上、この「粂寺弾正」は「さばき役」というのにあたります。
お家騒動などで悪人たちが問題をややこしくして、モメにモメてるところに颯爽とあらわれて
見事に悪人たちのたくらみを見破り、事件を無事解決させる、という
きわめてオイシイ役どころです。
普通はすっきりした二枚目の役柄でやりますが、この粂寺弾正は、それに
「荒事」の雰囲気を加味したところが独特の魅力となっています。
まさに知勇かねそなえて、しかも色気も十分にあるというお買い得なキャラクターです。
ところで、この尾上松緑という役者さんは、
吉右衛門をもっと太らせてたくましくして、迫力だして、
しかも愛敬を足したような魅力的ななおじさんでした。
しかも踊りがイケてました。吉右衛門さん踊りがねえ。藤間の家元の血筋なのに。
息子さん、死んじゃいました。もったいなかったです。
今、お孫さんの辰之助さんががんばってらっしゃいますね。
正月に『鳴神』やってましたね。声がよく、立ち回りに華があり、カラダも大きく、
…どんどんいい役者さんになってくれると思います。楽しみです、買いです。
さて、弾正さん、若衆にフられたあと
鉄製の毛抜きで無精ヒゲをぬいてヒマをつぶしていて
磁石の仕掛けに気付くんですが、
見るからにヒゲ濃そうですよね、男性ホルモン多そう。
つまり、毛抜きを使ってみせること自体、
男らしさやたくましさを表現する演出でもあるわけです。う〜んセクシー。
松緑というかたはこういう強そうないわゆる「荒事」の役が実ににうまい役者さんで、
強くて乱暴なだけじゃなくて、実は優しくて心がキレイ、という
荒事キャラクターの魅力を楽しませてくれたかたでした。
…なんだか今回、松緑さんのおハナシになっちゃってますね・・・。
-5-