『鬼一法眼三略巻』
=10:『色男のお庭番はいつだってアヤシイやつ』の巻=
『菊畑』 っていうお芝居のおハナシです。
『鬼一法眼三略巻』 (きいちほうげん さんりゃくのまき)っていう長いお芝居の
三段目の第一幕。
このあと『奥庭』 って幕がついてそれで三段目のストーリーが完成するので
この『菊畑』だけだと全然おハナシになってないんですが、
それでも『菊畑』だけをしばしば独立させて上演します。
理由は、いかにも時代物風のありがちなオチなので「奥庭」は面白くない、ということと、
『菊畑』のキャラクターがみんなキレイでかっこいいってこと。
ストーリーの首尾一貫性はまあ今さらどうでもいいかというわけですね、歌舞伎だし。
今回描いたのは知恵内 (ちえない)っていう色奴 (いろやっこ)。
「色奴」(いろやっこ)、「繻子奴」とも呼ばれます。奴は武家屋敷の使用人ですから身分は低いんですが、その分気楽です。世事にも長けています。
「色奴」はおおような人柄でケンカも強く、家の主人を悪人から守ったりお姫様との仲を取り持ったりするオイシくて楽しい役柄。
「紺看板」と呼ばれる紺色で襟がシマシマの木綿の衣装が「奴」の定番ですが、
同じデザインだけど色使いを派手にして生地は繻子のピカピカのを「色奴」は着ています。かっこいいです。
「機嫌がいい役」というまことに当を得た表現で語られます。
この“色”がつく歌舞伎の役柄は他にもあって、“色悪”“色小姓”“色敵”。
まあ、この「色」は
“キレイな”くらいのイミなんですけど、とはいえやはり「色」ですから
“セックスの対象になりうる” というニュアンスもあるし、その場合相手は当然男も女もOK
ですから、なんというか、やっぱりエッチっぽいです。
登場人物にはこの「知恵内」のほかに「虎蔵」という美少年がいて、これがなんと、
御幼少時の九郎判官義経 様です、知恵内は実はその家来なのです。
このふたり、鬼一法眼 っていう平家方の軍学者のお屋敷で
「花作り」 として働いているのですが
スキを見て蔵にしのびこんで秘伝の兵法書『六韜三略』
(りくとうさんりゃく、八幡太郎義家が大江匡房に教わった兵法が代々源氏に伝わっている) を
盗もうと、している、っておハナシ。
実際盗むところまでストーリー行きません。
チナミに義経様このお芝居でも棒でひっぱたかれます。
義経様といえばお約束ってかんじでしょうか、まあファンサービス。
チナミに「花つくり」って仕事のヒトときどき歌舞伎に出てきますが、
わたくし昔これを園芸農家の従業員のコトだと思ってました。
全然違います。これはお城やお屋敷の庭で菊とかのめんどうを見る、ようするに、庭師。
「木つくり」もいました。植木屋さん。
チナミに東京本郷にある「菊坂」は外注の「菊つくり屋さん」の畑があった場所(余談すぎ)。
庭にめずらしい菊を見事に咲かせるのはお屋敷のステイタスであり、
しかも極度に品種改良した当時の菊の栽培は特殊ギノウ。売り手市場。
けっこう身元がいいかげんでも「花つくり」は雇ってもらえたみたいです。
で、大事な菊があるのはいちばん奥の庭、屋敷の主人のすぐそばです。
あやしまれずに民間人がそんな奥まった場所まで行けるんですから
敵の間者・スパイが入り込むのに好都合じゃないですか。
お庭番=忍者 、の図式はこうして成立するのさ。
歌舞伎だと、お館の「花つくり」だと思っていた男が実ハ、お姫様(処女) の
死んだはずのいいなづけで、よろこんだお姫様(処女) が、
「後とも言わず、いまここで (したい)…」 なんて言い出してもう大サワギのおハナシがあります。
庭にはペンペン草生やしといたほうがお家は安泰ってコトですね。
この知恵内、それはそうと、いい男さ。
義経様の家来だから、美少年にアタマが上がらないお兄ちゃんってかんじで笑えます。派手な「繻子奴」 の衣装もぴったり似合ってます。
金と赤のきらきらの襟、てめえどのへんがそれ使用人の衣装だってつっこんじゃダメなのだ。
出だしのこのシーンも、庭そうじもしないで毛抜きでヒゲぬいてえばってるんですが、なかなか男くさい色気がただよってきますね、いいかんじ、いい機嫌。
こんなのが庭ウロウロしててくれるんなら花なんてどうでもいい気がするけど、それじゃますますお家はアブナイってか…?
次回、11月だから顔見世のはなし…。
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