=『保名』=
=17:『「六代目」という異次元』の巻=
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=イラスト=

『保名』(やすな)って踊りのおハナシです。

『 芦屋道満大内鑑』(あしやどうまんおおうちかがみ)っていうお芝居があって、
そこに、陰陽師(おんようし、陰陽道の修行をつんで 色んな術を使えるようになったヒト)、 そのお仕事をしてる安倍保名(あべのやすな)って兄ちゃんが出てくるんだけど、
そのヒトの踊り。
そうそう、今は「おんみょうじ」の読みがポピュラーですが、この時代は「おんようし」と呼びました。
こっちが宮廷おかかえの官人としての正式名称。
「陰陽師」というのは一応「陰陽道」を極めた「学者」であり「中級官人=貴族」でもあります。
「おんみょうじ」の読みは、室町以降、 陰陽師が市中の、ただの占い師になりさがってからの名称です。
んで「保名」
恋人の榊の前(さかきのまえ)が死んじゃって、保名は悲しくて、
気がふれたようになって春の野原をさまよう。
“物狂” (ものぐるい)と言われる所作(踊りね)のジャンルの中の、 代表作のひとつです。
ちなみに保名はこのアト榊の前にそっくりな妹の葛の葉(くずのは)と恋におちて、 でもそれとも別れ別れになって、
狐が化けて戻って来た葛の葉を本人と信じて結婚して、 子供までつくっちゃいます。
そのへんのゴタゴタは、今、主に上演される
『芦屋道満大内鑑』四段目 『葛の葉子別れ』で有名。
このおハナシ見るたびに、俺は思います。
てめえ、顔さえ同じなら、中味なんでもいいのか…?
やだね、男って・・・。
チナミにここで生まれた狐の子が、後の、かの「安倍晴明」だそうで、狐の子。
そら超能力くらいありそうだわね。
ところで、この「保名」って踊り、俺、ホントはあんまり好きじゃないです。
だってだって、なんだかズルズルしてるでしょ。 女のコトしか考えてねえってかんじだし、…みっともない。 実際「これは」という舞台を見たことがない。なんだかな。
と、ずーっと思ってましたあ。
このひと、六代目尾上菊五郎、 通称、「六代目」
明治末から戦後すぐくらいのヒトだから、ピークは戦前のころです。
昭和初期、戦争の前に、ケンランたる日本文化がとても高いレベルで存在してたことを、 今の日本人は思いっきし忘れてるしい…。
六代目の踊る『保名』。当然わたくしも写真でしか知りませんが ほかの『保名』とぜんぜん違って、すごく、キレイです。
ふつうは悲しいとヒトの気持ちというのはぐちゃぐちゃになっちゃうモノですが、 それがピンと一本、はりつめたまま、という感じです。
好きな女のコトしか考えてなくて、ドロドロでずるずるなハズのトコロでも、 育ちのいい男ってのはキレイなままなんだなと思って感心しちゃいます。
きっと、すごく悲しくて、あまりにかなしくて、ついに、女のコトも忘れちゃって、 心がこの世にはないんだろうなあと思います。
この世じゃない、もっとキレイな別世界に迷い込んでさまよってるというかんじ。
でも、そういうキレイな世界というのは、常日ごろからキレイなもの、和歌とか、音楽とかね、
を見聞きして心をみがいてジュンビしとかないと、 イザというとき逃げ込めないんじゃないでしょうか。
育ちと基礎教養の差というやつ。でも、それこそが、つまりその人を育てるための周辺環境であるところの「文化水準」
低いね今の時代は、いや世界的にさあ、もう。漫画なんか見てないでさあ、ねえ。
そういう、並の人間には手の届かない高みをちらっと見せてくれるのが、 「六代目」の踊りなワケです。
昔のハナシすぎて資料があんまりないのが、とても惜しまれます…。



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