=『伊賀越道中双六』=沼津=
=22:『おじさんは中味で勝負』 の巻=
『沼津』と呼ばれるお芝居のはなし。
沼津といえば新幹線だと三島でのりかえて東海道線ですぐの駅ですが、
歌舞伎では、ちょっとしみじみしたいいお話の舞台です。
この主人公の「十兵衛」、超シブ系のおじさん。
いや、年齢設定20代か。でも「おじさん」。
ていうか昔の人の年齢の感覚って、精神的にも肉体的にも今の2割り増しくらいだったと思うので、やっぱり「おじさん」です。
歌舞伎というのは主人公が事件起こさなきゃストーリーにならないから
主人公、多かれ少なかれ、やんちゃなトコがありますが、
この十兵衛は、とにかく真面目、親切、温厚、
ひとことでいうと、おとなの男です。
「沼津」は『伊賀越道中双六』 いがごえ どうちゅうすごろく という長いお芝居の一場面なので、十兵衛は本当は主人公じゃないのですが、
それにしてもこんな人間のできた男が主人公のお芝居は少ないと思います。
どんなトラブルが起きても、あわてずさわがず、
裏の事情までのみこんでまるく収めてくれる、頼れるおじさんです。
職業は呉服屋さん。手堅くおしごとしてます。
そして商用の旅の途中に通りかかった沼津で、この事件は起きたのです。
事件の詳しいトコロ長い上にフクザツすぎるのではおいといて、
『 伊賀越道中双六』って、荒木又右衛門が出てくる有名な敵討ち狂言ですが、その説明もおいといて、
十兵衛は、旅の途中で昔自分を捨てて養子に出したお父さんに出会います。
でも怒ったり恨んだりしないのです。で、相手が父親だと気付いてないフリをしたまま、
適当に理由をつけて貧乏なお父さんにお金をわたします。やさしいです。
こういうおはなしは現代のドラマでもなくはないと思うけど
なにかがこう、決定的に違うと思います。
たぶん、主人公の気持ち。恨んでるとか、親が恋しいとか、かわいそうとか、
そういうのを超越している感じです。
生きていればいろんな事があるし、イヤなこともある。いちいち恨んだりしないで、
とにかく、ひとにはやさしくして生きていこう。
なんだか、ほんとに自然にね、そういう生き方をしてるんです。
ああ、人間できてるなあ。かっこいいです。大人です。
ね、絵のこの格好見ても
一生懸命働いてる真面目なおじさんのかんじが伝わってくるでしょ?。
ふだんから地に足をつけてジミチに生きてれば、
人生のいろんなシュラバな局面で、けっしてあわてずに正しい判断ができる
十兵衛さんみたいな男になれるのかなあと思います。
こういう大人の男が減ってるのは、
人間の仕事が、いろんなイミでどんどん楽になってきてるせいかもしれません。
苦しくても、荷物が重くても、耐えてひたすら働くストイックな姿にしか
おとなの男の色気は宿らないのです、きっと…。
最後の場面で、お父さんは自分が犠牲になって十兵衛に無理な頼みごとをして
十兵衛はそれを聞いてあげます。
自分は他のヒトとの約束を破るコトになるんですが、聞いてあげます。
「親だから」じゃなく、「相手が本気で一生懸命だから」だと思います。
人生でたいせつなモノを的確に判断できるのも、大人の条件ですね。
そしで最後はお芝居の最後の方の段で、
「正しいと思うこと」と「守るべき約束」との板挟みになって、「正しいこと」のために、自分から斬られて死んでしまいます。
ほんとにシブいです。
やっぱり、シブい、上手な役者さんに
やってもらいたい役ですよね。
この役、じつに四十数個もの小道具を持って舞台に出ています。
それ全部がお芝居の展開に関係あるから、
絶対忘れものできなくてたいへんなんだって。
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