=『伽羅先代萩』=
=29:『悪役の鑑』の巻=
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いいなあ。カラーページにモノクロの衣装、この贅沢(笑)。
絶対、このヒトはカラーで描こうと思ってたんですよね。
だってこの悪役のカガミ、「仁木弾正」(にっきだんじょう)には やっぱり「床下」の場面のこの衣装がイチバン似合うし、 カラーで描かなきゃこれがモノトーンの銀鼠の衣装だってわかってもらえねえじゃん。
おハナシは『伽羅先代萩』(めいぼくせんだいはぎ)って、仙台伊達藩のお家騒動のネタ。
「仙台」と言っちゃうとあの時代イロイロまずかったので、「先代」。 「荻」は今でも宮城県の県花。 「伽羅」は、当時の伊達藩藩主が香木のきゃらのゲタを履いて吉原通いをしたという ゼイタクな逸話からとられてます。
成立事情を詳しく言うと、文楽と歌舞伎のミックスで、 いろいろ今上演しない面白い場面もあるんだけど、割愛。
このシーンは、殿中での若殿暗殺失敗の直後、
妖術を使ってネズミに化けて奪われた密書を取り返した首謀者の仁木弾正が、 主君側の家来、荒獅子男之助(あらじし おとこのすけ) に額を割られながらも なんとか御殿の床下を脱出、人間に戻ってこれまた妖術で空を飛んでにげていくところ。
こう書くとかっこわるいですが、実際に舞台で見ると仁木弾正、 実に堂々と余裕シャクシャクで花道を歩いていきます。
ちょっと失敗してザコにからまれちゃったけど、よいよい、大事ない、って感じ。
やっぱ一国一城、伊達藩八十万石を乗っ取ろうなんて思う男は大物だあ、みたいなかんじで 悪人ながらあっぱれです。ちょっとあこがれちゃいます。
悪役が強そうじゃないと危機感がないからおハナシはもりあがらないしね。
花道を歩く仁木弾正、本当は妖術で空中を歩いてるコトになっているわけですが、 こういう場合の花道って、舞台とはまったく別の空間としてあつかわれますから、お客さんは
舞台で男之助が「とりにがしたか」とか言ってて、そのすぐ前を仁木が歩いてても、 ちょうど映画のカットバックを見ているみたいに ふたつのシーンを別々に見て楽しんでる気分になるワケ。この国の劇場空間は、本当によくできてます。
ふつうは「妖術で空を飛ぶ」シーンは「宙吊り」を使いますが、 ピーターパンの専売じゃねえのよ、というか、江戸時代からちゃんとあったし、宙乗り。 昔は人力でシカケを動かしたから今よりも「フワフワ浮いてる」かんじは出たらしい。
まあとにかく、でも仁木弾正は「宙乗り」はしないの。 歩いてるだけで「宙に浮いてるように見せる」のが技術。 歌舞伎の中でも高度なワザです。
悪役としての怖さ、大物ぶりや、伊達藩(舞台では上杉家)執権としての格式、 妖術使いの不気味さ、すべてを感じさせて、 しかも、「かっこいい」と思わせられるような役者さんの役。
「実悪」と呼ばれる、主役級の悪役の典型。ふつう座頭格の役者さんがやります。
強さ、怖さ、貫禄、そしてかっこよさ、すべてのイメージが、 この銀鼠の裃(かみしも)に凝縮されてるような気がして、ジブンはこの衣装がすごく好きです。
最後にやっつけられちゃうってわかっててもね、「悪役人生、悔いなし」ってかんじ・・・?



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