=『乱平物狂(倭仮名在原系図)』=
=35:『心は常に戦場に、だから』の巻=
歌舞伎の「たちまわり」 。殺陣ですね。
これって、完全に様式化していて、スピード感も臨場感もなくて、
踊りみたいなもん、ってイメージありませんか?
ホンキ出してるのは、ほんとにすごいです。
『乱平物狂』 らんぺい ものぐるい、正しくは
『倭仮名在原系図』 やまとがな ありわらけいず 四段目、
の舞台なんかが、そう。
『伊勢物語』 で有名な在原業平 のお兄さん、在原行平 が出てくる、つまり
平安時代が舞台の古式ゆかしく、おおらかなおはなしですが、
後半、主人公の乱平 の「たちまわり」がものすごく激しいのです 。
この絵は、はしごに登ったトコロでの「見得」ですが、
このアト乱平が乗ったままこのハシゴが倒れます。
横になったハシゴはこんどは乱平を引っかけたまま横に一回転するので乱平、ハシゴにまたがったまま、逆さになったり、上で見得きったり、たいへんです。
先代の尾上辰之助が演ったときにはたいへんな額の保険をかけたそうです。
歌舞伎役者、踊りもやらなきゃなひとたちだし、骨折までいかなくても捻挫程度でも舞台はおおサワギでしょうね。
そう、この乱平も暴れてりゃいいってもんじゃなくて、前半にはちゃんとキレイに踊るシーンがあります。
このたちまわりのすごいのは、とにかく時間が長い ってところ。
計ってはいませんが、30分以上はこの調子であばれます。
見てるほうもけっこう疲れてきます 。そして、
「ああ、こりゃ役者さんは大変だあ」 と実感したころ、そう、
主人公の疲労困パイ に思いっきり感情移入しはじめたころ、
乱平 、力をふりしぼって、
幼い息子を探してさけびます。
そしてまた、勇ましい掛け声をあげて延々と闘います。
それを何度も繰り返すのです。
見てるほうにも、命懸けで闘いながら死ぬ前に一目息子に会いたい主人公の気持ちが
疲労感とともにリアルに伝わってきて、ちょっと泣けちゃうくらいです。
でもやっぱりそれは、キレイで豪華な、絵巻物みたいな、歌舞伎の殺陣 なんです。
不思議。
当然ながら、この殺陣を支えているのはまわりにいる下回りの役者さん たち。
このヒトたちの動きのレベルがものすごく高いから、
「きれいさ」と「迫力」が両立するんでしょうね。
さて、この殺陣の振り付けは、じつは戦後のもの。
坂東八重之助さん って方の手によるもので、
このかた、ほかにもいろんなお芝居の有名なたちまわりをつくってらっしゃいます。
歌舞伎は、古いようでもちゃんと時代とともに進化していってるんですね。
関係ないですが、このお芝居最後のシーンで乱平が行平との別れぎわに
「たちわかれ・・・」 って言うんですが、
これ、もちろん「百人一首」に入っている行平の歌からとったセリフ。
昔のヒトはこういうの聞いて、すぐ、「ああ、あれだ」ってわかったんですよね。
いいなあ。文化ってかんじ。
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