かぶき風俗通信
『極附幡随長兵衛』=公平問答=
=61:『夢の中の夢』 の巻=
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「劇中劇」というものは、どの国のどんなお芝居でやってても
なんとも、もう、楽しいものでございます。
これは先月も描いた『極附幡随長兵衛』きわめつき ばんずいちょうべえの中の劇中劇、
タイトルは
『公平法問諍』 きんぴら ほうもんあらそい。
「幡随院長兵衛」ばんずいいん ちょうべい さんは江戸の前半期、
元禄のころの実在の人物ですから、
このお芝居も元禄時代のとある日に上演されてるって設定、
舞台の構造から唄や鳴り物、お芝居の内容にいたるまで
「昔の江戸歌舞伎」の雰囲気をリアルにただよわせていて楽しいです。
じつは、オリジナルの『極附・・』にはこの場面はなく、
初回上演の十数年後に作者河竹黙阿弥のお弟子さんが、オリジナルの前半部分の代わりに
この場面を書き下ろしました。
後半とのつながりがいろんな意味で少々弱く、わかりにくくなっているのが欠点なのですが、
あまりに楽しい名場面なため、誰一人文句をいうひとはおりません。
「昔の江戸歌舞伎」というのがまた楽しいシロモノで、
ストーリーはみんなおんなじ、悪者が弱い善人をいじめてると、
正義の味方だけどちょっと乱暴なお兄さんがやってきて、悪者をやっつけちゃうぞ、かっこいいぞ。
このお芝居の「正義の味方」役は、
タイトルにもあるとおり、坂田公平 さかた きんぴら。
金太郎さんの息子さんですね。平安時代の有名な武闘派キャラクター。
源頼義(頼朝の先祖ね)が、お坊さんの慢容上人の口車にのせられて
息子の賀茂義綱を出家させようとしています(多額の寄付つき)。
大切なぼっちゃんを出家なんかさせるもんかと家来の坂田金平、
慢容上人に仏法問答をいどみます。
そんで、その問答が強引で乱暴で、おもしろいの。
慢容上人がイヤなやつだから、乱暴なリクツ(実力行使込み)でやっつけられる様子が
ざまあみろで、とても楽しいひと幕です。
ちなみに「歌舞伎十八番」というのはあらかたこのタイプのお芝居。
『暫』しかり、『助六』しかり。
今上演されるこれらの「江戸歌舞伎」は、
長い間にずいぶん演出も派手になり、洗練され尽くしたものですが、
この劇中劇でやってるのは、いわば再現されたその原型。
単純で、少々乱暴で、元気いっぱいです。
元禄という時代の、まだあか抜けないけど華やかなエネルギッシュさが伝わってきます。
「劇中劇」だけあって、おやくそく、お芝居の途中でジャマがはいったりして大さわぎ、
役者さん役の役者さんたちが(わかりにくい・・・)
「役として」の演技(かっこいい)と「役者さんとして」の演技(かっこわるい)を
かわりばんこにしてみせてくれて、そのギャップもまた笑えます。
全体に、あそびゴコロをもって、とにかく楽しそうに演ってみせていただくのがハマる場面。
「やっとことっちゃあ、ウントコナ」
ってこれ、かけ声なんですが、「どっこいしょ」とか「うんこらせ」とかを
強そうに強調していくと、こんな大げさな具合に。
そんな大声を出しながら強いおにいさんが大暴れする、歌舞伎の草創期のみずみずしさとともに
成熟した歌舞伎の演出の一環としてのこの場面の遊びゴコロも味わいたいところなのです。
この「劇中劇」、「観客役」の役者さんはいません。
客席で見てるわれわれが「お客さん」の役。
全てが若々しく、荒っぽかったあの時代の観客になりきって舞台に夢中になってみる、
そんな遊びゴコロで楽しんでみるのもまた、極上の夢のひとときです。