『絵本太閤功記』
=64:『もったいないねあっぱれ若武者』 の巻=
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  ここんとこ若い男描いてないことに気づいたので今月は美少年描きます。
『絵本太功記』えほんたいこうき 十段目の、『尼崎閑居の場』に出てくる、
明智光秀の息子、十次郎くん。数えで17歳。
あ、「太功記」は「太閤記」の誤植ではないよ、わざと変えてあるのだ、
江戸時代は南北朝あたりまでは実名とかオッケーだけど戦国以降のネタやるときは あれこれ規制があるのでねえ。
なかなかの人気演目、「太十」の俗称で親しまれています。
歌舞伎は文楽で作られた長い物語の中の 歌舞伎向けの一部分だけを上演することが多いので、
「○段目だけ出します」というイミで数字が交ざった俗称は多いです。
『御所三』(『御所桜堀川夜討』三段目)、 『玉三』(『玉藻前曦袂 たまものまえあさひのたもと』三段目)、『鎌三』(『鎌倉三代記』七段目←三段目じゃねえじゃん、これは「三代記」の三)とかが有名。
↑余談。
『絵本太功記』は「たいこうき」と付くワリには太閤秀吉は主人公じゃなく、
信長にいじめられた明智光秀が謀反を起こしてから、秀吉に負けて敗走中に死ぬまでの14日間の物語、
そして光秀とは関係なく、高松城の水攻めの場面なんかもあって
全体としては信長の急死にまつわるその時代の出来事を光秀メインで描いた オムニバスストーリーズというかんじです。
読むぶんにはかなり面白いですが、上演向けではないです。十段目しか出ないわけです。
んで、「十段目」は、光秀、秀吉との決戦の直前、
息子が謀反をおこした時点で怒り狂って尼になり、 尼ヶ崎(当時は閑静な海辺の村だった)で隠遁生活を送る 光秀の母皐月
光秀一子、孫の十次郎が出陣の許しのおねがいと暇乞いにやってきます。
十次郎、父の謀反にはじめから反対、義や理のない戦いに勝てるわけがないと、はなから思っております。
でも息子だから父親のために一緒に戦って死ぬ決心です。けなげです。
そんで、いいなづけの初菊ちゃんとのかわいらしくも美しい色もよう(プラトニック)があって、 十次郎凛々しく出陣、
次に出てきたら体に矢が何本か刺さってて、血まみれです。負け戦です。
父親に戦況を報告して、父の身の安全を気遣いながら死んでしまいます。かわいそうですが、
それだけに、いわゆる「儲け役」でもございます。
父の謀反を容認できない正義感、それと父親への愛情や孝行心とのせめぎあい、結果、 「戦って死ぬ」という答えしか見いだせない一途な若者、
しかも、こんなキレイなのに、戦国の世に生まれたばっかりに、生まれてから17年、 今まで戦と武芸のことしか考えたことないそうです。
母親の操が不憫がって泣くのもむべなるかなです。もったいない
とまあ同情を買いまくりの泣かせる役ですが、この段の直前の場面なんかでは 群がる敵の雑兵(ぞうひょう)をたったひとりでなんなく追い散らしてます。 けっこう強いです。オトナかも。
運命に翻弄されるかわいそうな美少年、じゃなく、
充分な戦闘力や判断力を持っていて、強い意志でもって父のために戦って死ぬ美丈夫です。
そう思って見るとなかなかかっこいい役ですね。
性格のよさ、顔のキレイさ、役としてのかっこよさ、ストーリー上の重要さ、 本来歌舞伎の一座の中でたいした地位を占めてない「若衆」という役柄の中で、
トップクラスのいい役でございましょう。
キレイな役者さんがやればたいていハマりますが、自分、この役に限って言えば
文楽のこの役の人形の頭(かしら)の、ひたすらキレイな顔が一番イメージぴったり。
なんというか、こう、「理想化された若者像」だからかなあ。